2024年~KTMは結局どうなったのか? 再生?買収?
・2024年末、KTMは資金繰りが後ろ倒しになっていたことから、グループ中核の「KTM AG」について「自主管理型の再生・更生」を進める方針を公表しました。
・難しい言い方ですが、「会社の主導で立て直しの計画を裁判所の枠組みで実行していく」という手続きです。
・申請日は2024年11月29日。そこから90日以内に再生計画をまとめるという、比較的タイトなスケジュールが示されました。
・これは短期で大まかな道筋をつけて、まずは事業を「止めない」ことが狙いでした。
・背景としては、在庫が積み上がったまま(在庫高止まり)、金利上昇による資金コストの重さ、電動自転車(e-bike)事業の伸び悩み、そして部品の流れの滞り(サプライチェーンの詰まり)が重なり、現金を稼いで回す力(キャッシュ・コンバージョン)が弱っていたと分析されています。
・海外の業界メディアでも、負債の膨張と短期運転資金の確保の難しさがボトルネックになっていたとの報道がほとんどです。要するに「資金の入りと出が合わず、動きづらかった」ということですね。
・転機は2025年2月25日。「KTM AG」の再生計画が債権者集会で正式に可決されました。
・この時点で少しずつ光明が見えてきた感じでしたね。ポイントは「弁済率30%を一括現金で支払う」と具体的な計画です。
・早めに確定させて、先へ進むための現実的な着地点を選んだ形ですね。
・計画では2025年5月23日までに必要資金を管理人へ預け入れること、そして3月以降の生産再開に向けて運転資金を確保していくという具体的なロードマップが示されました。
・この「一括30%」は短期での安定化➡「中期での再編」という2段構えで、Bajaj系の資金支援を前提に据えた流れと見られています。
・ここで重要なのがBajaj AutoのSPV(特別目的事業体)、ここでは「Bajaj Auto International Holdings B.V.」などの存在です。
・Bajajは以前から「Pierer Bajaj AG(PBAG)」を49.9%保有しており、ここが今回の重要な支えになりました。
・「Pierer Bajaj AG(PBAG)」はPIERER Mobility AG(PMAG)の約75%を持つ持株会社で、Bajajの間接持分は約37〜38%(おおむね37.5%)と換算されます。支配関係の土台はここですね。
・この関係を前提に、2025年5月23日、BajajはPIERER Mobility AG(PMAG)の残りを段階的に取得できる「コールオプション契約」を結びました。つまり「条件が整えばPIERER Mobility AG(PMAG)の過半を取りにいける権利」というわけです。
・満了は2026年5月31日までなのですが、実行に向けてはおよそ8億ユーロ規模(日本円換算で約1,391億)のデットパッケージも走っていると報じられています。
| *デットパッケージ(debt package):複数の借入(デット)を束ねた資金調達セットのことです。1本の融資では足りない金額や期間・用途を、性質の異なる借入を組み合わせて満たす、まとめプランのこと。 |
・このように資金面を用意しながら、段階的に支配を強めるという進め方ですね。
・さらに2025年10月23日、オーストリアの買収委員会が、Bajajによる支配権取得を「再編目的(ÜbG §25)」として認め、強制公開買付を免除する「再編特例」を付与しました。
・これは一定条件の下で義務的TOBなしにBajajがPierer Bajaj AG(PBAG)の支配を得られる道筋が示された形です。
| *再編目的(ÜbG §25):オーストリアの『買収法(Übernahmegesetz:ÜbG)』で、経営再建・再編のために「支配権」を取得する場合に、本来は必要な強制公開買付を、買収委員会が条件付きで免除できる制度のこと。 |
・これで、手続上のハードルを下げ、コールの全面行使に進みやすくする枠組みが整いました。
・もちろん条件は付いており、規制上のクリアランスや開示の徹底などが求められますが、これらが満たされればコールを実行→「Pierer Bajaj AG(PBAG)」支配の単独化へと進めます。
・Bajaj側の開示でもこの免除は確認され、11月上旬に主要な規制クリアを見込むとされています。
・ただし現時点(2025年10月29日時点)では最終行使・最終完了までは到達していません。
・条件がそろい次第、「Pierer Bajaj AG(PBAG)」→PIERER Mobility AG(PMAG)→KTM AGという「実質支配」の流れがBajaj側へ移るというのが今の最新状況です。
| Pierer Industrie AG(50.1%) + Bajaj Auto International Holdings B.V.(49.9%) │ └── Pierer Bajaj AG(PBAG) … PIERER Mobility AGの約74.9%を保有(筆頭株主) │ └── PIERER Mobility AG(PMAG)(上場ホールディング) ├─ KTM AG ほか(KTM / Husqvarna / GASGAS 等の事業会社) └─ フリーフロート(約25%) |
・事業運営のほうは、2025年上期のアドホック開示で、再編益(約11.87億ユーロ)を計上し、自己資本の回復や純有利子負債の半減といったバランスシートの立て直しがしっかりと示されました。
・さらに、MV AgustaやX-BOWの売却、自転車事業は2025年末までに段階的に終了し、二輪本体の立て直しに集中する方針が明確になりました。
・生産は2025年7月末からフル再開しており、在庫の整理と小売の戻りを見ながら、出荷のペースを慎重に整える段階ですね。日本でも今いろいろ金利キャンペーンや在庫キャンペーンしてますね。
・ここでの「身軽化」は、新世代モデルへの切り替えとも歩調を合わせています。
・製品計画では、EICMAで示してきた新世代のロード&アドベンチャー群について、2025年9月11日の公式発表で「量産期(いつ作るか)」が確定しました。
・目玉の「990 RC R」はすでに本格生産へ入っているようです。990RCR自体はこちらで↓
・また、「990 DUKE R」や「1390 SUPER ADVENTURE R」などの主力も、地域ごとの投入時期が明らかになっています。
・「990RCR」の発表と同時に、2026年の「990 RC R CUP」(欧州6戦)を10月14日に発表されました。
・MotoGPでオンロードレースのイメージもしっかりついてきているKTMですから、こういうブランドイメージアップの方向性は大切ですよね。
・KTMらしいレース直結のブランドという強みを、量販回復への局面にきちんと重ね直しているイメージで嬉しいです。
・レースの結果は、資本や製品のストーリーにわかりやすい後押しを与えますが、そのまま売れ行きに影響するかは難しい所ですね。
(私が大好きなapriliaとかがまさにレースいい感じなのに、売れてるの?頼むから撤退しないでという感じです、、)
・オフロードの方でも好調で、2025年のダカールではダニエル・サンダースが総合優勝し、KTM通算20勝目。「勝てるDNAは失われていない」ことを強く示しました。
・また、MotoGPではシーズン中盤以降はAcostaが2位表彰台を複数回重ね、Moto3ではRuedaがタイトルを確定。さらにTech3はシュタイナー主導の買収(2026年発効)も公表し、体制の継続性を担保しています。
・この直近3年は、①法的な安定化 → ②資本の再編 → ③事業の再設計 → ④新世代モデルの量産確定 → ⑤レースでの“見える成果”という順番で、少しずつ信頼を積み直してきた時期だと思います。このままうまくいってほしいですね。
・今後の「鍵は」やはり、Bajajの意思決定と資本投入の実行タイミングでしょうか。再編特例で手続が軽くなったいま、Pierer Bajaj AG(PBAG)のコール行使が進めば、グループ内の意思決定が一本化しやすくなり、開発→生産→在庫→市場投入までのテンポも良くなってくるかと思います。
現時点の「Bajajの支配率」
・BajajはPierer Bajaj AG(PBAG)の49.9%保有。Pierer Bajaj AG(PBAG)はPIERER Mobility AG(PMAG)の約75%を保有(2024年時点開示)。間接保有換算で約37.5%相当。
・2025年10月23日に再編特例が認められ、Pierer Bajaj AG(PBAG)の残持分(50.1%)取得に向けた条件整備が完了しつつあります。
・最終行使は未了(2025年10月29日現在)
Bajajとの今後…? 買収される?
・PIERER Mobility AG(PMAG)は約74.9%をPierer Bajaj AG(PBAG)が保有。PMAGの傘下にKTM AG。要するにPBAGの主導権をBajajが握れば、PMAG→KTM AGまでを間接的に単独でコントロールし得るという構図です(株主構成は2024年10月時点)
・Bajaj Auto International Holdings BVから4.5億ユーロのリストラクチャリング・ローン、PBAGから3.5億ユーロの株主ローンを調達済み——と会社側が公表(資金実行の一次情報)
・2025年10月23日:オーストリア買収委員会が「再編目的」での支配権取得を承認。義務的TOBは免除され、一定の条件を満たせば所定期間内にコールを全量行使してOKという内容が示されています(条件付与あり)。
・本日(2025年10月29日)時点では、オプション行使の実行通知と最終クロージング日は未公表。
・規制等の条件を満たせば短期に動ける可能性はあるものの、公式発表が出るまでは確定とは言えません。
・最終の持分比率・取引条件の細部:行使が一括か段階か、その結果の最終パーセンテージは、クロージング開示で初めて固まります。
・この先の段取りが計画どおり進めば、Bajajによる「間接的な」単独支配となる可能性は高いと思われます。
・ブランドや開発の拠点は当面いまの形を保ちつつ、調達や生産はインド協業で効率化——という流れが自然ですね。
KTM 再生・更正の経過
| 日付 | 出来事 | 影響・補足 |
|---|---|---|
| 2024年11月26日 | KTM AGが「自主管理型の司法再生(Sanierungsverfahren)」申請方針を公表 | 11月29日に正式申請。90日以内に更生計画の合意を目標。 |
| 2025年2月25日 | 債権者集会でKTM AGの再生計画を可決 | 弁済率30%を一括現金で支払う内容。5月23日までに管理人へ預託。 |
| 2025年4月1日〜5月22日 | 生産再開に向けた資金手当て・クオータ資金の確保 | BajajサイドからPMAG/KTM向け資金供給。段階的に再開準備へ。 |
| 2025年5月23日 | BajajがPBAGに対するコールオプション枠組みを公表(5/31/2026まで) | PBAG(Pierer Bajaj AG)支配取得に向けた枠組みが明確化。 |
| 2025年7月末 | KTMの量産再開(7月末〜) | 在庫圧縮と小売需要の堅調さを前提に再立ち上げ。 |
| 2025年8月28日 | PMAG 2025年上期アドホック:再生利益計上・財務改善等を公表 | 純資産黒字化、純有利子負債半減。MV Agusta/X-BOW売却と自転車事業終了方針。 |
| 2025年9月11日 | 新世代ロード&アドベンチャー生産タイムライン更新(公式) | 990 RC R=2025年晩秋投入、1390/990シリーズの量産期が確定。 |
| 2025年10月14日 | 「2026 KTM 990 RC R CUP」発表 | 欧州6戦のワンメイク。市販RC R/トラック版で参戦可能。 |
| 2025年10月23日 | オーストリアTO委員会がBajajの「再編特例」を正式認定 | 強制TOB不要条件を付与。PBAG支配取得へ前進(諸条件付き) |
MotoGP KTM部門の経過
| 日付 | 出来事 | 影響・補足 |
|---|---|---|
| 2024年11月26日 | KTM AGが「自主管理型の司法再生(Sanierungsverfahren)」申請方針を公表 | 11月29日に正式申請。90日以内に更生計画の合意を目標。 |
| 2025年2月25日 | 債権者集会でKTM AGの再生計画を可決 | 弁済率30%を一括現金で支払う内容。5月23日までに管理人へ預託。 |
| 2025年4月1日〜5月22日 | 生産再開に向けた資金手当て・クオータ資金の確保 | BajajサイドからPMAG/KTM向け資金供給。段階的に再開準備へ。 |
| 2025年5月23日 | BajajがPBAGに対するコールオプション枠組みを公表(5/31/2026まで) | PBAG(Pierer Bajaj AG)支配取得に向けた枠組みが明確化。 |
| 2025年7月末 | KTMの量産再開(7月末〜) | 在庫圧縮と小売需要の堅調さを前提に再立ち上げ。 |
| 2025年8月28日 | PMAG 2025年上期アドホック:再生利益計上・財務改善等を公表 | 純資産黒字化、純有利子負債半減。MV Agusta/X-BOW売却と自転車事業終了方針。 |
| 2025年9月11日 | 新世代ロード&アドベンチャー生産タイムライン更新(公式) | 990 RC R=2025年晩秋投入、1390/990シリーズの量産期が確定。 |
| 2025年10月14日 | 「2026 KTM 990 RC R CUP」発表 | 欧州6戦のワンメイク。市販RC R/トラック版で参戦可能。 |
| 2025年10月23日 | オーストリアTO委員会がBajajの「再編特例」を正式認定 | 強制TOB不要条件を付与。PBAG支配取得へ前進(諸条件付き) |
参考文献
[1] PIERER Mobility AG, “KTM AG prepares application for judicial restructuring proceedings with self-administration”, 2024年11月26日(Ad-hoc)。pierermobility.com
[2] PIERER Mobility AG, “Restructuring plan of KTM AG accepted by creditors”, 2025年2月25日(Ad-hoc/Press)。pierermobility.com
[3] OTS (EQS), Ad-hoc: Restructuring plan of KTM AG accepted by creditors, 2025年2月25日。OTS.at
[4] PIERER Mobility AG, “Takeover Commission confirms restructuring privilege…”, 2025年10月23日(Ad-hoc)。pierermobility.com
[5] OTS (EQS), 同, 2025年10月23日。OTS.at
[6] PIERER Mobility, Ad-hoc News index. pierermobility.com
[7] PIERER Mobility AG, Preliminary results H1 2025, 2025年7月25日(Ad-hoc).pierermobility.com
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[9] The Economic Times, Regulatory nod in Austria(Bajaj側開示報道), 2025年10月24日.The Economic Times
[10] KTM Press/News, “KTM RELEASE PRODUCTION UPDATE…”, 2025年9月11日(公式).ktm.com
[11] KTM News, “RISING THROUGH ADVERSITY…”(年表リンク集).ktm.com
[12] Yahoo Finance, PKTM.SW H1 FY2025 Earnings summary.ヤフーファイナンス
[13] Finanzwire/Webdisclosure, Restructuring Privilege confirmed(要旨).Finanzwire
[14] KTM, Models / Naked / News セクション(時系列参照).ktm.com
[15] Reuters, “Bajaj Auto enters call option deal…”, 2025年5月23日.Reuters
[16] CycleNews, “KTM enters self-administration…”, 2024年12月3日.Cycle News
[17] Pierer Industrie AG, ReO開始と終了.Pierer Industrie AG
[18] PIERER Mobility AG, “Bajaj provides funds…”, 2025年5月22日(Ad-hoc).pierermobility.com
[19] Sharewise, “Further funds secured for the resumption of production at KTM”, 2025年4月1日.sharewise.com
[20] Reuters, “Bajaj call option / €800m package”, 2025年5月23日.Reuters
[21] Bajaj Auto, 年報注記:PBAG 49.9%(持分移管の経緯).Bajaj Auto Annual Report
[22] PIERER Mobility, Shareholder structure(PBAG 75%).pierermobility.com
[23] Business Standard / Economic Times 等、PBAG49.9%の言及.ビジネススタンダード
[24] KTM Press, “Daniel Sanders and KTM win the 2025 Dakar Rally”, 2025年1月17日。KTM Sportmotorcycle
[25] Reuters, Dakar 2025 総合記事(バイク部門Sanders優勝)。Reuters
[26] KTM Press, “How we won Dakar 2025”(動画リリース)。KTM Sportmotorcycle
[27] KTM Press, Bastianini & Viñales to Tech3(2024/6/13).KTM Sportmotorcycle
[28] KTM Press, “Red Bull KTM all-in for 2025”(体制発表).KTM Sportmotorcycle
[29] KTM News, インドネシアGP:Acosta 2位/Rueda王座.KTM Sportmotorcycle
[30] Reuters / MotoGP.com, インドネシアGP結果(Acosta 2位, Aldeguer初優勝)。Reuters
[31] KTM Press, “THE 2026 KTM 990 RC R CUP”, 2025年10月14日.ktm.com
[32] KTM News(北米/各地域版), CUP発表の横繋ぎ.ktm.com
[33] Reuters/MotoGP/Motorsport等, Tech3買収(2026発効).Reuters