MVアグスタの本気「5気筒エンジン コンセプト」とは?
・2025年のEICMAで、MVアグスタがひっそりと展示して話題になったのが、新開発の「5気筒コンセプトエンジン」です。
・その後、2025年11月13日にMVアグスタ公式サイトで「CONCEPT MOTORE A 5 CILINDRI MV AGUSTA」というニュースリリースが公開され、スペックやレイアウトの概要が明らかになってきました。

引用元: https://www.mvagusta.com/ch/it/news/5-cylinder-engine-concept
・MVといえば3気筒と4気筒のイメージが強いブランドですが、そこに「5気筒」という禁断カードを追加してきた形です。
・排気量は850〜1150ccクラス、最高出力は240ps超、そして重量は60kg未満という、かなり攻めたコンセプトになっています。
・しかも、ただの直列5気筒ではなく「スクエア型(square)レイアウト」の独特な構造を採用しているのが大きなポイントですね。
現時点で公表されているスペックと概要
まずはMVアグスタ公式リリースとEICMAでの説明から、「事実ベースでわかっていること」(数値はいずれもコンセプト段階です)
・気筒数:5気筒(Cinque Cilindri/チンクエ・チリンドリ)
・排気量:モジュラー構造で、おおむね850〜1150ccクラスを想定(スーパースポーツ〜ツアラーまでカバーするプラットフォーム)
・最高出力:240ps超を16,000rpm超の高回転で発生することを想定
・最大トルク:8,500rpm付近で最大135Nm(クラスとしてはど太いトルク)
・エンジン:重量60kg未満を目標とした軽量設計
・その他:ウォーターポンプとオイルポンプは電動駆動(機械式駆動を廃し、効率とレスポンスを最適化)
・5気筒特有の点火順序とトルク特性で、低回転から高回転までのフラットな特性を狙うコンセプト
・乗り味:高回転のピークパワーだけでなく、「扱いやすさ」「フラットなトルク」「コンパクトさ」を同時に追求するプラットフォームとして位置づけ
・この時点で、単なるお祭り的なコンセプトではなく、「将来の量産車に載せることを前提とした実用プラットフォーム」として設計されているのがわかります。
スクエア型5気筒レイアウトの特徴
・このコンセプトで一番面白いのが、いわゆる「スクエア型(square)」と呼ばれる5気筒レイアウトです。
・一般的な直列5気筒とも違う、かなり変わった構造になっています。
・シリンダー配列は、前方に3気筒、後方に2気筒を少しオフセットさせて配置するレイアウトです。
・クランクレイアウトとしては、クランクシャフトが1本だけで、前列3気筒と後列2気筒を「U字型」のようにまとめた構造になっています。
・直列4気筒よりもエンジン幅が狭く、V4よりも前後長が短いパッケージになるよう設計となっています。
・5気筒ならではの点火順序と、前3+後2のレイアウトを組み合わせることで、一次振動を巧みに打ち消し、バランサーに頼らずスムーズさを出す狙いとのことです。
・排気ポートは、前側3本+後側2本に分けることで、シリンダー列周辺の熱だまりを避ける設計(自動車のVRエンジンで問題になりがちな熱の偏りを抑える意図があるとみられます)
・まとめとしては、「ほぼ直列エンジンに近いコンパクトさを維持しながら、Vエンジン的な前後長の短さも両取りした5気筒」というイメージです。
・自動車でいうと、フォルクスワーゲンのVR5/VR6に近い考え方を、モーターサイクル用に最適化してきた、という説明が一番しっくり来ますね。
5気筒という選択肢のメリット・デメリット
・なぜわざわざ構造の複雑な5気筒にするのか?というところも、少し技術的な背景を整理しましょう。
・まず、5気筒エンジン全般の話として、以下のような特徴があります。
①4気筒より1気筒多いため、1サイクルあたりの爆発回数が増え、理論上はより滑らかで力強いトルクを出しやすい
②高回転での出力を狙いつつも、低〜中回転域のトルク谷を減らしやすい(※点火間隔の関係)
③3気筒や2気筒に比べると構造は複雑で、部品点数やコストが増える
④従来の直列5気筒はエンジン長が長くなりやすく、バイクだとホイールベースや重心位置の自由度が制約される
・MVの5気筒コンセプトは、この「直列5のメリット」と「V型のコンパクトさ」をいいとこ取りしようとしたもの、と言ってよさそうです。
・しかも、可変バルブタイミングなどの複雑な機構を使わずに、点火順序とレイアウトでトルク特性を作り込むという思想も見て取れます。
・5気筒のMotoGPマシンと言えば、ホンダRC211Vが有名ですが、あちらはV型5気筒(V5)で、レギュレーション上の重量制限をうまく使って高回転・高出力を狙ったレイアウトでした。
・一方、今回のMVは、市販プラットフォームとして「軽さ・コンパクトさ・扱いやすさ・高出力」を同時に狙う、より「市販車寄り」の5気筒と言えます。
どんなモデルに載るのか? ※妄想レベルです
※情報の性質ごとに3つに分けて整理します。
【1】事実ベースでわかっていること(公式+会場コメント)
この5気筒エンジンは、将来の複数モデルに使う「新しいプラットフォーム」として設計されている
想定セグメントは、スーパースポーツ/ネイキッド/ツーリングなど幅広いカテゴリー
MVアグスタ現行ラインナップには存在しない「新しいモデル」に、最初に搭載される予定
デビュー時期は明言されていないが、「今後数年のうちに発表される新型」であることだけは公式に触れられている
【2】まだ公表されていない、不明なポイント
最初に出てくる量産車の正式車名(スーパースポーツ寄りなのか、ハイパーネイキッド寄りなのか)
実際に採用される具体的な排気量(例:900cc台のSSか、1000〜1100ccクラスのフラッグシップかなど)
最終的な最高出力・トルクのカタログ値(240ps超・135Nmという数字はあくまでコンセプトの目標値)
電動ポンプ以外に、どこまで電動化・電子制御が入るのか(マイルドハイブリッド化の有無など)
【3】ここからは完全に妄想ゾーン(個人的な予想)
・最初に出てくるのは、MV版「フラッグシップスーパースポーツ」=仮に「F5」「Superveloce 5」的な車名で、カーボン多用の超少量生産モデルになる可能性が高そうです。
・その後、エンジンを少しデチューンしたハイパーネイキッド(Brutale系)や、スポーツツアラー派生モデルが追加される、という3段階展開も十分ありえます。
・価格帯は現行のSuperveloce 1000 Serie Oroなどを考えると、最初の限定モデルが「とんでもない値札」で、その後に少し落とした量産版…というMVらしいパターン?
他メーカーの5気筒との違い
・せっかくなので、5気筒エンジンの代表例であるホンダRC211Vと、コンセプトレベルでの違いも簡単に整理しておきます(もちろん用途も時代もまったく違うので、あくまでイメージ比較です)
RC211V:990cc V型5気筒、レース専用、当時のMotoGPレギュレーションを最大限利用して「5気筒でも4気筒と同じ最低重量」のアドバンテージを活かした設計。240ps超の最高出力とコンパクトさを両立した、純レーシングユニット。
MV 5気筒コンセプト:850〜1150ccクラス想定、将来の市販車用プラットフォーム。スクエア型レイアウトと電動ポンプを組み合わせ、ピークパワーだけでなく、街乗り〜ツーリングも含めた「扱いやすい高性能」を狙っている。
・どちらも「前3+後2」のシリンダー配置をベースにしつつ、ホンダはレース規則と重量・出力のバランスからV型5気筒を選び、MVは市販プラットフォームとしてエンジン幅と前後長を極限まで詰めるためのスクエア型5気筒を選んだ、という違いが見えてきます。
まとめ
・MVアグスタの5気筒コンセプトは、「また変なエンジンを作ってきた」という良い意味でのMVらしさ全開のプロジェクトです。
・ただの話題づくりというわけではなく、850〜1150ccクラスの将来プラットフォームとして本気で開発している点が見て取れます。
・直4とV4がひしめくリッタークラスの世界で、あえて5気筒というニッチな解を選んだMVアグスタ。生き残るすべをいろいろもってますよね。
・スペックだけ見ると、240ps超・60kg未満という数字は相当エグいですが、実際の量産仕様では「どこまで尖らせるのか」「どこまで普段使いに寄せるのか」という味付けが最大の見どころになりそうですね。
・いずれにせよ、「前3+後2」のスクエア型5気筒は、今後数年のスポーツバイクシーンでかなり話題の中心になるはず。
・市販車が出てきたタイミングで、改めてスペック比較表や価格予想もまとめていきます。